名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(う)441号 判決
原判決挙示の証拠、殊に、被告人に対する検察官事務取扱作成第一回、第三回各供述調書の記載、磯野幸男、豊原兼松、石崎庄次に対する各検察官事務取扱作成の供述調書の記載、新村選士に対する検察官事務取扱作成の供述調書謄本の記載等を綜合すれば、原判示の事実、すなわち、被告人が、新村選士と共謀の上、原判示日時場所に於て、磯野幸男、石崎庄次、豊原兼松、新谷治、浦下義雄等に対し、判示選挙候補者への投票方を依頼し、其の報酬として、一人前約金三十円相当の茶菓子を供し、もつて饗応接待したものであることを肯認するに十分である。弁護人は、「被告人は、磯野幸男等に対し、判示の如き趣旨をもつて、茶菓を提供したものでなく、被告人方に於て、判示候補者の後援会員が集合し、会務遂行のため諸般の協議した際、後援会の経費をもつて、これ等の者に対し、社交的儀礼として茶菓の接待をしたものに外ならない。」旨主張するけれども、前顕の証拠によれば、(一)被告人居宅附近の青年達は、平素被告人方を屡々訪れ、茶の間又は離れ等に於て、雑談に時を費すなど、さながら、被告人方は、これ等青年達の社交倶楽部であるかの如き状況であつたこと、(二)この状況を知る新村選士は、被告人に対し、原判示候補者の当選を得る目的の下に、これ等青年が被告人方に遊びに来た際、これ等の者に同候補者への投票を依頼した上、其の報酬として、金三百円程度の茶菓の饗応をされ度き旨依頼したこと、(三)被告人は、右依頼の趣旨を諒承し、原判示の通り、偶々自宅に来会せて居た磯野幸男外数名の者に対し、一人前約三十円相当の茶菓を供し、且、これ等の者に対し、「今度の参議院の選挙には、小木町から芳野国雄さんが出て居つてやさかい、芳野さんを書かにやならんやろが」等と申向けて、原判示候補者に対する投票方を暗に依頼したものであつたこと、すなわち、所論の如く、芳野国雄の後援会の協議の席上、社交儀礼上の茶菓を会員に配付したものではなかつたことを認定するに足る。なお、被告人の供与した茶菓の価額が、一人前約三十円相当に過ぎなかつたことは、まことに、所論の通りであるが、此の程度の報酬によつても、よく人の歓心を買うに足ることは言うまでもなく、これによつて選挙の公正を害するおそれなしと断定するを得ないので、被告人の所為をもつて、犯罪を構成しないとする論旨には賛同することを得ない。論旨はすべて理由がない。